殯の宮(習作?)/岩下こずえ
 
死児の乗る馬跑足で
野分立つ森を抜け
殯の宮に

石の閨房
皇后の媾合
膜翅類の王と同衾するのは黄土の媼
紫の簒奪は木霊の命の消えるときまで語られる

         *

顔を持たない女が午睡を貪る
それはかつて存在したことのない花売りの女
明日の余剰に落し込まれた嫡子児の欺瞞
過去の余燼を孕み
時制の胞衣を埋葬する二人の石女
初花祝いのささやかな聖餐は
昨日の斎食と同じ三つの花弁

蛟の毒
水銀と硫黄と塩との混淆
狂人のふりをした狂人
鶏小屋の奥で薄笑いを浮かべる梶子たち
軽薄な散文詩の中で殺され続ける乳飲み子の群れが
祖霊の歌を嘯く

払暁の呱々の言は嗚咽の頌歌となり
遠来の鐘声に融ける
盲いた母親たちはその妍を競い
閲兵の朝を待たずに曖昧宿の灯りは消える

石の通りでは犬が犬を打ち
針子の短い叫びが名もない草木の葉脈を貫く

その音は殯の森まで達するだろう

はたして連枷の回転は止み
唖の笑話が始まる

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