夏の歌/藤原絵理子
 

透明な大気に満たされていた
谷あいの小さな あの村に
あたしの夏は いつも帰っていった
斜面のトマト畑で 見上げた空に


悲しみはなかった 日暮れの蜩の声にさえ
秘かに憧れていた 少年の笑い声にだけ
今日の次は明日 明日の次は明後日
謂れのない希望は 湧き上がる真っ白い雲へ 


いくつもの季節が 流れ過ぎた
いつの間にか 忘れ果てた 草熱れ
いろんな人の悲しみが 通り過ぎていった 


聳えていたはずの山は 低くお辞儀をして
遠かった山道は ぶらぶら歩きの散歩道
もう帰ってこない あたしの夏は

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