誠実と暴挙の交差点/クナリ
 
あの不安定だったひととき
この人のためなら
自分が持っているすべてを
投げ打っても構わないと思った

自分はこの一時、血迷っているだけなんだろうな、とは気付いていた
一晩も経てば、正気に戻ってしまうだろう、とも悟っていた
だから今捨て身にならなければ手遅れになる、と
ひどく冷静な自分の影が
背中からささやいていた

正気に戻るのが怖くて怖くて
狂乱のまま大急ぎで
戻れないところまで駆け抜けようとした
でも
それにすら
失敗した

一晩はすぐに過ぎたね
もうすぐ十年経つね
思いがけず、私は今もまだ、血迷ったままでいるんだね

あなたのために暴挙に走れなかったことは
誠実だったのだろうか
逃避だったのだろうか

後悔はしているよ
でもそれは
私が今も私でいるからこそでもあるよね

電話に出てくれて、ありがとうね
すごく勇気を出したんだよ
十年分もの
十年分もの。


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