壊れないもの/凍月
 

少女は欲しかった
壊れるものしか知らなかったから
ただ
壊れないものが欲しかった

父から貰ったテディベアは
引き取り手の叔父に引き裂かれた

父は車にはねられて
人形のように手足が変な方向に曲がってしまった

叔父はもはや人間ではなく
怪物にしか見えなくなった


少女の世界は凍り付き
音を立てて壊れ始めた


ただ、壊れないものが欲しかった
そんなものが存在しなくても
形あるものは壊れると
形の無い心さえ
壊れるのだからと
頭では理解しても
それでもやはり欲しかった



彼女は知らなかった
形あるものが壊れた時
直せるものもあるのだと

彼女は知らなかった
心が壊れたとしても
治る事だってあるという事を




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