酒場の狂人/青土よし
 





精神は境界に達する時、全ては粉々に、あらゆる事象が無
になってゆく。間違いだけが瑞々しく犯され、あらぬ嘘と
信じがたい嘆き、あなたにだけは苦労をかけぬ、と在りし
日の祈りはこだま。夢をみちびかぬ孤独の末席でつくづく
思う、全体はまた一すじの雫であると。目の前で脈打った
のは東雲、残りはあなたの嫌悪感が永い夢を見る。出口に
近いのは目的であった。千の口をふさいで女は不幸をさけ
んだ。あまりに愚かしい世界と自己との分別がまったくな
されていないその嘆息、かしましい不平、お前は笑いなが
ら不平を言う。赤いすき間の内にゆるす。聞いていない記
憶の中に氷がゆれ、夏だけが大きな音を立てる。ひびく喪
はゼロ、獄中で音を立てて。お前の肉体のために、一人だ
けが正気であとは自尊心の中なのか。足早に通り過ぎてま
たしても陰気にさけび続ける、女。
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