いつかこころが目覚める朝に/ホロウ・シカエルボク
 





そいつは生まれてすぐに
数十年前に潰れた廃棄工場の
錆びた中古車の中に置き去りにされた
有刺鉄線を器用にくぐり抜けた母親は
数時間後に自宅近くで酔っ払ったタクシーに跳ね飛ばされて死んだ
そいつもすぐに
彼女の後を追うはずだった
だが
そいつが捨てられた中古車の中には
死産した雌猫がいて
彼女は気がふれていた
彼女はそいつに乳を与え
全身を舐めて綺麗にした
寄り添って眠り
あれこれと世話を焼いた
なにが良くて悪かったのか誰にも判らない
雌猫の乳は出続け
そいつは病気ひとつしなかった
夏の夜だったことは幸運だった
そいつが自分で動けるようになる
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