マディソン/雨伽シオン
 
 様式美も形骸化した愛も欲しくはない。痛みの先に甘美な法悦があると信ずるきみの、石膏製のような鎖骨に空いたピアス穴に針を通すこと。その時、いつもは無口なきみの瞳が恍惚の色に染まること。それだけが私を満たす愛の歓びだった。
 一週間に一度、きみを部屋に呼び招くたびにピアスを替える。小さな番号が刻印されたピアスには一から九までの番号が揃っている。
 一番をつけている間は毎日夜九時にショパンの夜想曲第一番変イ長調を奏でること。二番をつける時には赤いペディキュアを塗ること。三番は朝食に柘榴の実を食すること。四番は寝る前にムスクの香水をつけること。五番は毎晩「アンダルシアの犬」を観ること。
 六番は私
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