さようなら、戦士/ちと
戦士は傷ついていた
胸に深い傷を負っていた
傷口から溢れる透明の血には
誰ひとり気づかなかった
時が経ち
傷は癒えたかのようだった
時々傷跡の奥深くがじりじりと痛むことは
誰ひとり知らなかった
ある時
戦士は傷跡を撫でた
傷つけ傷つけられた日々を思い
真っ赤な涙を流した
まるで焼け焦げるような痛みも記憶も
すべて絞り出すかのように
戦士はとうとう決意した
この苦しみから逃れることを決意した
この罪から許されることを望んだ
戦士は世界一澄んだ湖を訪れた
醜い傷跡からにじむ透明な血も
陰惨な記憶に流した真っ赤な涙も
全てを溶かすような透明の湖を訪れた
戦士はひとり
世界にさようならを告げて
水底へ沈んでいった
透明の血も
真っ赤な涙も
ひとりの戦士がいたことも
誰も知る者はない
さようなら、戦士
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