猫はサワン/MOJO
 
文章家が表現したように、ひんやりとして心地よいものであった。
 あの日以来、私はあの猫をよく見かけた。私は惣菜屋の店員だったから、残り物の小鯵南蛮や、鉄火巻きの具を持ち帰り、あの猫を見つけるとその場で与えた。そのうち、帰宅した私がマンションのエントランス付近まで来ると、あの猫は必ず現れるようになり、耳を水平に寝かせ、私の足もとに擦り寄ってくるようになった。腹はますます膨らみ、出産はもう間近のようだ。
 ところが、とんでもない不幸が彼女を襲い、それを知った私は、どうしても彼女の危機を傍観できなかったのである。
 五月の連休中に、彼女は災難に見舞われた。当時、私のマンションには、管理人室があった
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