猫はサワン/MOJO
 
連れてエントランス付近に現れるようになった。仔猫たちの食欲は旺盛で、私の持ち帰る残り物の惣菜をうーうーと唸りながら喰った。しかし仔猫たちは、母親がそうするように、私に擦り寄ってくることはなかった。
 毎年、梅雨の頃になると、あの猫の仔たちが、エントランス横の植え込みに咲いた紫陽花にじゃれついていたことを思いだす。無彩色の周りの風景に、そこだけ切り取って貼り付けたような、紫陽花の青紫が鮮やかだった。
 私といえば、未だにふてくされが治らないが、あれ以来、猫が部屋に来たことはない。

                〈了〉

参考文献、井伏鱒二『屋根の上のサワン』

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