もうひとつの「夕暮れの病院」/……とある蛙
日常の時間という縦糸と
家族と付き合いの横糸
そこに堆く積まれている
それぞれの人生
ちょっとした布のほころびに
突然落下しそうになった君
何年ぶりだろうか
いや、三五年ぶりに手を繋いで
その綻びから落下しないように
人生の山に引き寄せようと引っ張ってはいるが
君は右側に傾いたまま歩こうとする。
そのままでは綻びに足を取られるだけでなく落下する
と 僕は叫んで引っ張り上げようとするが、
君は弱音を吐きながら薄く笑う
堆く積まれた人生だと誤解していたものは全て
実は全て軽々してきた悩み苦しみ弱音あきらめ
五階の病室から売店に
三五年ぶりに手を繋いで歩いている
売店はもう午後六時には閉店していた。
彼女の欲しかったものはまた買えなかったのだ
でもこれから何度でも歩いてゆく
何度でも欲しかったものが手に入るまで。
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