コンパス/夏美かをる
 
たった一つの完璧な円
そのけなげで優しいカーブと
上気した横顔を思い描いて
私は静かに泣き続けた






以来娘のコンパスは引き出しの奥に仕舞われたままだけど…

文具店やスーパーマーケットの片隅に
澄まして整列しているその仲間を見つける度に
鋭く尖った足先が私めがけて一斉に伸びてくる

いいえ、コンパスはなくならない

あの日娘に与えてしまった痛みを
母として、母である限り、
この胸に深く刻み込んで生きるために
何度でも何度でも
私はその針に突かれなければならないから、

コンパスはこれからもこの世に存在し続けるのだ

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