コンパス/夏美かをる
 
ひったくって
引き出しの奥に放り込む

ああ、コンパスなんて大嫌いだ!!
コンパスなんかこの世からなくなってしまえ!

それは娘の叫び?
いいえ、無垢な魂を抱く器など持ち合わせぬ女の叫び

この子はこれからコンパスを見る度に思い出すだろう
鬼と化した母の冷たい視線
胸を突き刺す冷酷な言葉
コンパスなんかなければ
真っ白な娘の心に
どす黒いシミをつけることもなかった
娘の苦手がまた一つ増えることも…





 お腹が空いた
下の娘の声に促され 西日の射し入る台所に立てば
包丁が暴走し、指の肉を切りつける
所詮母という衣しか纏えない愚かな女の鮮血が

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