広場/藤原絵理子
アックア・アルタの夜
サンダルを脱いで 広場を歩いた
さざ波を切って進む 船の気分
月はぽっかりと バシリカの塔に突き刺さった
小橋のたもとで 割れたガラスが
きらりと光る リストランテの裸電球に
あたしが残してきたものを
思い出させる フルートの音色 流れる
悲しみの壁に 消えかけた文字
予言者の言葉は ひび割れて 月の光に
剥がれ落ちる 運河に沈んで 海に流される
素足に触れた 甃の意外なぬくもり
見回せば ここは宮殿の広場
箒に乗った魔女が 低空飛行でカッフェに入った
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