濡れることも出来ない夏なんて/ホロウ・シカエルボク
 
歩きましょう、ぬくもりを求める虫のように
凍える必要なんて何もないのに、こんな夏の夜に
馬鹿みたいに歯の根を鳴らしながら


街外れの空地の捨てられたタクシーの中で
くっついて眠りながら朝が来るのを待てばいい
フロントガラスに落ちる雨粒を見ながら
いつか夢中で読んだ小説みたいにボブディランをハミングする


今夜の表通りには不思議なくらい人も車も通っていなくて
私たちはまるで最後の人類のように歩く
街外れのおんぼろのシェルターを目指して
夏の夜に凍えながら馬鹿みたいに歩いている、それはきっと幸せなこと


そう、濡れることも出来ない夏なんて、きっと。








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