蛍の歌/藤原絵理子
 

黄昏の土手道の 足に触れる草の香り
手を引かれて ゆっくりと帰り道
新月の宵 目をこらして 気がつくと
お地蔵さまの前掛けに 灯り始める


祖母の乾いた 日なたの匂いが
「淋しかあない 淋しいことなんぞ」
語りかけてきた せせらぎの合間に
藍色に霞んだ竹林が 闇に沈む前に


過去の方角から
笹を手にした子供らが駆けてくる
あたしを追い越して 未来の方へ歓声が遠ざかる


笹の葉を透かして洩れる 
去って逝った人の面影が 揺れる
遠い遠い思い出に 微笑だけが浮かぶ

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