赤提灯の音/為平 澪
 
その会が開かれたのは 誰も知らない下町の
赤提灯の中だった

自己紹介よりも先に 大皿に盛りつけられた
大量の鮮魚の切り身や貝の盛り合わせが
次々と 運ばれてきた
私たちはその魚たちが どんなルートで
テーブルの上にまで 辿り着いただけを語って
決してそのメニュウの名前を
明らかにしないでも 分かり合えた

赤提灯の中が 酒にほだされて
益々赤く 色づき始めると
私たちはそれぞれ持ち寄った「音」について
話し始めた

一人は日本の鏡が忘れられなくて、と
微笑み
一人はギターを抱いたら酒に溺れて流される、と
言い出し
一人はヤクザな敬語のジャズを弾ませ、

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