パリの指輪/山部 佳
 
を、あなたにあげるんだから」
やっぱり、物乞いではないか
とりあえず、はぐらかせておいて
時間を稼いだ後,本題に移るというわけだ

大勢の恋人たちが
嬉しそうに錠前を取り付けている
鍵を川に放り投げて、キスする
あの南京錠は10ユーロくらいか

私は、ロマ人の女に10ユーロ札を与えた
彼女は満面に笑みをたたえ
「いい旅を」 などと言いながら
足早に立ち去っていった 街の方に

これは、ロマ人の女の詐欺ではない
何故なら、私はその指輪の価値を
橋の上で見抜いていたからだ
近所の買取ショップで、その指輪は
32000円の値がついた
10月の憂鬱なパリも、たまには悪くない


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