パリの指輪/山部 佳
 
陰鬱な曇り空から
思い出したように降る雨
その降り方に苛立つ
10月のパリには、苛立つ憂鬱

どぼぼぼ…
不景気な音を立てて
バトビュスが橋をくぐる
やかましい東洋人の観光客を満載して

ロマ人の女は
どこからともなく現われ
「あなた、落としたわよ」 と言いながら
金色の指輪を、私の手に握らせた

「何のために生きているの?」
新手の物乞いかと思ったが
スカーフの中で微笑みながら
こんなことを尋ねる

混乱した私は、日本人らしく
曖昧な薄ら笑いに隠れて
手のひらに載った指輪を値踏みし
家族の顔や会社のオフィスを思い浮かべた

「あたしが拾ったのを、
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