ぱくぱくぱく/栗山透
歌をうたう自分の姿を想像してみる
なにを歌えばいいのだろう
あかりは子どものことを可愛いとは思うが
すべてを見透かされているような 真っすぐな瞳がこわかった
どんな顔をして歌えばいいのだろう
あかりは本から目を離して池のほうを見た
白い鳥はいつの間にかいなくなっている
なんという鳥だったのだろう
けれど、その代わりに さっき鯉にえさをあげていた
三人の子どものうちのひとりが
真っすぐこちらを向いて立っている
ひとりだと少し心細そうだ 歳は小学校の低学年くらいか
痛いくらいの視線を感じてあかりはとっさに微笑んでみせる
男の子はあかりが微笑んだのを確認すると
すたすたとあかりの目の前まで近づき 右手をぐいっと差し出した
手には袋が握られていて 中にはクッキーが入っている
瞳は恐ろしいほど 真っすぐだ
「くれるの?」あかりが訊いてみると
男の子は首が取れるかと思うほど勢いよく肯く
ありがとう、と言おうとしたとき 男の子は ぱっと走りだした
あっという間にあかりの視線から消えたと思うと
声が聞こえた
「ぱくぱくぱく!」
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