彼は知らない/
塔野夏子
彼は詩と戯れている
彼は詩を知らないけれど
詩と深々と戯れている
だから彼は踊る
誰よりも美しく
彼は恋を知らないけれど
薔薇の愛撫も菫の接吻も
知っている
だから彼は踊る
あやうい悩ましさで
幾重にも
きらめき透きとおる陶酔の波紋を放ちながら
彼は踊る
迸る情熱に身を委ねて
その情熱の源を知らないままに
夢の化身として
彼は踊りつづける
その蹠(あしうら)の踏むところ世界の頂に変えながら
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