うちわ屋/遙洋
 



この辺りではこれは伝統工芸品なのですか

うちわをしずかにかたむけた老婦人は
そのようです、と言った

夏至の夕ぐれ

これがそうです、と
少しくたびれたうちわを差し出された
半分は普通のうちわで
もう半分は、透明な地に墨絵が描かれている

これはどちらも同じ地ですが
こちらがわは、ニスを
塗るのです
すると絵柄だけが残って、あとは
透けて見えるのです

ことばの
声と声との間のしずみようはうつくしく
意味は忘れられて久しいように聴こえる

これはそうして、つくるのです

わたしは一本、それを買い
川までの道をゆっくり
なまぬるい空気をあおぎあおぎ
ひとびとの流れにまざって行った



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