歌いたい/ただのみきや
 

萎んだ心に息を吹き込む
空気のように目には見えない
大切なものが漏れて往く
紙屑の皺を伸ばすように
 歌い出す 
いのちの輝きは遥か
記憶の地平の彼方
燃え落ちる花のように笑っていた
うたた寝の夢のように溶けて消えた
そう在りたかった自分の欠片が
暮らしの綻びから塵のように漂い
逃れられない明日から
激しく振って頭をまた振って
真白な夜へ沈んで考えないで
 歌いたい
魚の失くした声で
寝ずの番をする魂へ手向け
花でも香でも祈りでもなく
 歌いたい
愛でも苦しみでもない
ただただ存在を注ぎ出し
空っぽになって
何も感じなくなるまで
 歌になりたい



    《歌いたい:2014年6月22日》




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