黒点に接ぐエニス/佐久間 肇
 
黒い闇のふちを歩いていた
ぬかるみが 靴を巻き込み
わたしを 裸足にした

岸の向こうでは 手招きをする遊女がいて
ゆらり ゆらり と闇に浮かぶ鮮やかな色が
爪先に 針を落とした

ふちでは一輪の花が咲き
わたしはそれを摘もうとするのだけど
手を伸ばすと
それは花びらを回転させて
大きな牙を剥きだすのだ

底なし沼に変わりはじめる ぬかるみの
グラデーションではなく 一本のラインを
目に見えるかたちで 太く
描こうとして 絵筆を握るのだけど
遊女が ゆらり ゆらりと 近づいてきて
やわらかい体を わたしにぶつける

飲み込まれてゆく 靴を眺め
裸足のまま
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