鈴の比喩/ユッカ
ない。それは唯一よかったことだと思う。わたしたちは幸福でいなければいけないんだ、という茫漠とした思いに足をつかまれてはいないか。風のない丘にひとり立たされているような気持ちから抜け出せない。義務感にずっと閉じこもっていたら息が苦しいんだ。わたしは飢えていないし安心して眠れる寝床もあるしある程度やさしい一般的な家庭に恵まれている。それなのに急になつかしいようなかなしいような不穏なきもちに襲われて何もできない。それは朝も昼も夜も何も関係なく。何が平和だ。この嘘つき。大っきらい。
嘘をつくことと本当のことを言わないっていうことは、違うようでいてまったく一緒だね。何も言えない関係はなんて貧しいんだろうね。音も無く抱きしめられても体温が離れたらすべて忘れてしまうのに、言葉から離れたがる、ある日突然すべての鈴が鳴りだす。それを永遠と呼んでもいいけど、こんな真似事になんの意味もないってことに早く気づいてよ。
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