はるかな個人/乾 加津也
その時、理由(いわれ)のない衝撃に狂うわたしのために
あらゆる風景が恐怖の紐で吊るされていた
だが、わたしは風景の風景たらしめる骨格なのだ
わたしの印象なら壁にそってどこまでも落ちていった
わたしの背後にはたしかな一人の“声”があるばかり
“また、歩きださなければならない”
わたしがわたし自身であることの一欠片(ひとかけら)の証しもない
硬くあることで不明瞭な塔の影から抜けだす
夢中でしがみついたものが砂の縄だった
風の吹きすぎる妨げでしかない
苦笑していると一日が失われている
ライフとどんぐりは秤で水平につりあう
天気が毎日少しずつ変化してゆく
わたしが
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