ミシェルウェルベック『素粒子』書評/yamadahifumi
 
大切な事は、この書物の毒が全身に回らない人は、正にそれと同量かそれ以上の毒を、その人生そのものによって全身にくまなく輸液されるという事だ。そしてこの事は避けようがない。…この書物のクライマックスとは、かなり壮大な終わり方になっているが、これをどう取るかは人それぞれだろう。だが、それよりもこの書で語られた真実は二十一世紀初頭に生きる僕達にはあまりにも辛い事実だ。僕達がこの毒をどう取るかは人それぞれだが、しかし、この書から目を背けるというのが、もっとも簡単な方法だろう。だが、この書はそういう事を容易には許さない。人は辛い気持ちを味わいながら、本書を読み終えるだろう。そして読み終えた時、この世界がそれまでとはほんの少し違う色付けになっている事に気づくだろう。それはそれ以前より、少しばかりブルーがかっているかもしれない。そういう気がする。この毒を抜く方法はまだ世界のどこにも発見されていない。僕達は依然、『素粒子』の世界のただ中にいるのだ。そしてそれからどうやって抜け出ればいいのか、その方法はまだ誰にもわかっていない。
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