ミシェルウェルベック『素粒子』書評/yamadahifumi
れる事には我慢ならないの」、というような台詞がある。これはまた辛い言葉だ。アナベルというのは恐ろしいくらいの美貌の持ち主であり、この社会では非常に輝いた存在であるのだが、実はそれは本人からすれば、(あるいは客観的に見れば)『程度のいい家畜』でしかないという事が明かされる。結局の所、僕達の中にある情欲ーーーないし、恋愛に関する観念にした所で、このアナベルの言葉以上のものを僕達が持っているとは言明しがたい。恋愛、結婚、幸福。だが、他人から幸福にされる事を望んでいる人間というのは、まるで、『一番程度のいい家畜』として扱われる事を望んでいるのではないのか。人間としてではなく。人として自立するつもりはなく、
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