猿のいた部屋/草野春心
 


  テーブルの隅に重ねた手紙も
  椅子の背に掛けたタオルも
  乱されてはいなかったけれど
  さっきまでここに猿がいたことはわかった
  茶と金の間のような色合いの体毛は
  一本たりとて落ちていなかったけれど



  あなたを愛していたと私が口にしたなら
  笑うだろうか、あなたは、微かに歪な歯をみせて
  それともただ少しだけ歩みを止めるのだろうか
  既に部屋の出口へと向かっているその歩みを




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