猿のいた部屋/
草野春心
テーブルの隅に重ねた手紙も
椅子の背に掛けたタオルも
乱されてはいなかったけれど
さっきまでここに猿がいたことはわかった
茶と金の間のような色合いの体毛は
一本たりとて落ちていなかったけれど
あなたを愛していたと私が口にしたなら
笑うだろうか、あなたは、微かに歪な歯をみせて
それともただ少しだけ歩みを止めるのだろうか
既に部屋の出口へと向かっているその歩みを
戻る
編
削
Point
(6)