葉書/草野春心
 


  葉書に書かれるまでは
  それらをたしかに覚えていた
  あなたを抱きしめた秋の夜更け
  蹴って散らした枯れ葉の響き



  葉書に書かれるまでは
  私たちは本当に私たちだった
  けれど今はもう違う……今はもう、
  机に置かれた 安物のマグのほうが
  もっと ずっと 私たちらしく見える



  信じられないかもしれないけれど
  その嘘はかつて私たちだった
  葉書に書かれるまでは
  私たちは生きて抱きしめ合い
  互いを赦し合いさえした
  けれど 今は もう
  違う




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