ひとつ 満ちる/木立 悟
川をのぞきこむ灯が
映る自身から目をそらし
むこう岸を照らし
河口を見つめる
重なる橋が落とす影
金属の網が降らす色
霧へ 霧へ
傾く夜
雨上がりの骨の道
さらに遠い雨へとつづく
曇は曇に退いて
水の指をただ光らせてゆく
曲がり角が浮かび
静かになる
行方知れずの
街のはじまり
曇が
少しずつ降りてくる
原とのわずかな隔たりを
少しずつ霧が埋めてゆく
空のなかばで倒れるもの
音の色の輪をひろげ
無数の泡を径に敷きつめ
夜をさらに夜に染める
白く分かれた静けさを
壊れかけた灯が照らしている
水の指がひとつ
曲がり角をなぞり消えてゆく
地平線に 水平線に
爆ぜるものが爆ぜるものを呼んでいる
水銀の虹が泡に満ち
見えない街に 光の柱を立ててゆく
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