うつろい/
草野春心
桜の葉を胸に抱いて
墨色の風は流れていく
女に似た雨の匂いが 岩間にひそむ苔を洗う
うつむくひとの唇から 知らぬ間にすべり落ちた
わたしの名をだれが忘れずにいられるだろう
浅すぎる初夏の川に佇む しずかな鯉
あなたの躯の奥で 灯されつつある幾つもの閃き
けれどもだれが いつまでも忘れずにいられるだろう
わたしはわたしの哀しみさえも
それと指差すことができないのに
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