虫干し/藤原絵理子
 

田舎の蔵にあった
あばらの浮いた患者の胸
愛想のない円空仏
薄明かりで見ると たじろぐ

大きな桃が
「どんぶらこ」と 流れてきたとき
あのおばあさんも使っていた
に 違いない

あたしは
使い方さえ知らない
母も 「使ったことない」 と言う
不思議な形の板

眠っている間に
小人が現れて
朝 目が覚めるまでに
ちゃんと仕事を片付けてくれる

電気さえあれば
もう 洗濯板なんかに用はない
斜めドラムだってあるし
梅雨時だってちゃんと乾く

手懐けられた電子は
人間をどんどん無能にしていく
洗濯板を捨てて
余計な情報の海で溺れる

蔵から出ると 光の洪水
青い空と真っ白い雲の 夏
こんな人里でも
ミンミンゼミが大声をあげている

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