しおくみざか/れつら
くまで、もう少し、かかる、のだが、
こんなことがなければ (この街)に来るなんて思わなかったなあ
と、向かいに越してきたカレー屋の奥さんは言った。
そんなもんですかねえ
でも、いいところですね
そうですかねえ、夏暑いし、冬寒いし
それはこっちだって同じよ
(けれどあの時見返した海は今日と同じだったろうか)
たったひとつの街に、
わたしたちは別々の場所で、別々のからだを生きる
雪が溶けて、そのことを忘れて、忘れても
忘れがたない、雪と、花
(霙は溶けて、虹に、、?)
そんなもんですかねえ
(そんなこと、考へるの馬鹿)
終わってしまったと思っていた桃の花は、まだ始まってもいなかった。
時間をひとつ、またぐたびに
季節は遅れて、花の香も遅れて、
届く。そして遅れ気味に(電気よりはだいぶん遅れて)、
いのりも。まぬけた顔で、
届く。春に、
ようやくこの街は手をかけたところ
祖父は、(つぎの春に死ぬのだが、)坂をのぼっていく。切り花を背負って。
わたしも今から、また新幹線に乗る。
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