二十七歳/草野春心
 


  この径は 小学生の頃歩いた径だ
  カモシカの出る薄暗い通りをどういうわけか私は再訪する
  時間をかけて少しずつ完成に近づいていく 一匹の軟体動物
  私の躯で存在を大きくしていくそれを 彼れ此れ数日は持て余している
  くぬぎの樹のもとに 数枚の葉が落ちており私はそれを踏みつける
  かつて私は憧れさえしたというのに その逞しい光沢に



  かつての私に似ているとは
  此れっぽっちも思えない子供たちが騒がしく遊んでいる
  声だけが耳にきこえ 姿は目に見えない
  私は疲れた 私は倦んだ 私は
  この瞬間にも頭の中で形づくられる
  言葉の形をととのえようと こめかみの辺りに手を添えた



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