霧雨の降る/イグチユウイチ
例えばそれは、南国の蝶のように、
甘い香りを発し、
闇に伏せた光を好んだ。
夜の東京が好きだと、そう言った。
確か、雨だった土曜日。
こいつを買ってみたものの、
どこか白けていて、
そんな気不味さに雨は良く似合っていて、
サーッと言う雨音を聞きながら、
ろくな話もせずに、歩いて国道沿いまで。
ぼんやり明るい自販機の前で、
温かいジョージアを渡す。
微笑。そばかすだって、悪くねぇ。
お前を選んだのは大した理由なんか無くて、
ただ、綺麗な青いシルクが、
モルディブの海で染めてきたような青いワンピースが、
お前の痩せた胸や濡れた足元で
儚く揺れたから。
アルコールで滲んだ俺の目に、
南国の青はまた揺れる。
マタドールに挑発された思春期の雄牛は、
多分こんな感じ。
うっとりするぜ。
うっとりするぜ。
45rpmで世界が回り続けるなら、
それはきっと素敵な事。
ネオンも汚水も光の雨もピアノの音も
みんな綺麗に混ざればいい。
俺とお前も、そうなればいい。
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