もうひとつの日傘のチェリー/りゅうのあくび
 
りの雨の日
彼女の住む旧い
アパートへと送るために
ひとつ傘の下
ふたりで歩いていた
雨水を弾く日傘は
とても小さくて
ふたりは降りしきる雨に
びっしょり
濡れながら
帰って行った
ストライプの模様の傘には
紅いチェリーの絵柄が
描かれていたことを
想い出す

やっとのことで
僕は外来で
診察を終えると
待ち合わせ駅へ
復路を電車で向う
休日の昼下がりに
高層ビルが立ち上る
まるで透き通る
鍵穴のような
青空からは
もう初夏の陽射しが
嬉しそうに
そっと零れている

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