君に与えられた色/夏美かをる
 
多く住む地域の学区と統合されることになったら
 皆こぞって自分の子を私立校に転校させた―
百年前の話じゃない
夫が子供の頃の話だ

マイノリティが多く住む地域を通る時
彼は決まって言う
「ここは治安が悪い」
そして、
「これは差別じゃなくて事実だ」と付け足す
私が何かを言う前に

アフリカ系の大統領が選ばれたって
そんな大人達と、彼らに育てられている子供達が
君の周りには沢山いる

「ねえ、学校は楽しい?」
一人で廊下を歩いていた君に 
思わず声を掛けると
君は無言でいきなり壁を三回パンチした後
逃げるように走り去った
 
一体何をやっつけたかったのだろう?
パーカーのフードを深く被った君の
あまりにも華奢な後ろ姿が
淡い五月の霞に溶けていった

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