笑顔/ハァモニィベル
 
モノクロの映画が、僕の方を、じっと観ていた。
僕の黒い瞳は、、薔薇色の少女の口元だけを観ていた。
こんなにも、楽しそうに、君は笑ってくれてたんだ。まだ、君の、
弾けるような笑顔がそこにあった。

無色な透明となった僕は、その笑顔が今あることに撃たれた。
この映画館を出ると、僕等を襲う悲劇を、
まだ知らずに、笑い、泣き、そしてまた笑う、君の、
だたそれだけの、このワンシーンを、永遠に、僕は、

この瞳に焼き付けておきたい。
映画のラストシーンが近づく。僕の肩に寄り添った君を
離れた席から観ている、十年後の僕。たった、一度だけ許された、

このタイムスリップで僕が選んだのは、ここだった。
君と初めてデートした一日。それは、この映画館を出た十五分後に
君を失った、この、・・・あの一日。



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