居酒屋幽霊/……とある蛙
 

俺の声も聞こえないのか?
お袋は酒呑め無いのに
親父ぃ、こんな処連れてくるんじゃないよ

なんだぁ
 しっかりやっているかだってぇ
身振りで分かるよ

そんなわけ無いじゃないか

だぁめ!!
だめなんだよ


もう疲れちゃった
じゃなけりゃぁ
こんな処で油なんぞ売っていないって

(暗転)


店には誰も客が無く
一人船漕ぐ深い夜
表の暖簾はすでに仕舞われ
眠りから覚めた男が独り
「親父幾らだ」
しわくちゃになった千円札を
何枚か伸ばして親父に渡し、
ふらりと店を出て行く夜更け
蛙処は隣町
一人布団にくるまるだけの
春の夜更けの一幕でした。

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