居酒屋幽霊/……とある蛙
俺の声も聞こえないのか?
お袋は酒呑め無いのに
親父ぃ、こんな処連れてくるんじゃないよ
なんだぁ
しっかりやっているかだってぇ
身振りで分かるよ
そんなわけ無いじゃないか
だぁめ!!
だめなんだよ
俺
もう疲れちゃった
じゃなけりゃぁ
こんな処で油なんぞ売っていないって
(暗転)
5
店には誰も客が無く
一人船漕ぐ深い夜
表の暖簾はすでに仕舞われ
眠りから覚めた男が独り
「親父幾らだ」
しわくちゃになった千円札を
何枚か伸ばして親父に渡し、
ふらりと店を出て行く夜更け
蛙処は隣町
一人布団にくるまるだけの
春の夜更けの一幕でした。
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