墨で描かれた白い鳩/塩崎みあき
見せてもらえない物なのだ
猫の心臓と猿の脳と牛の視神経
全て漂白され隅々までくっきり見渡せる
見事な標本達
ご褒美ですよ
生徒はピンと来なかったが
そんなことはもうどうでもよく
ただ標本に見蕩れるばかり
教師は再び生徒の肩に手を添え
目線を同じにしながら標本を見つめる
時々来る生徒からの質問に応えながら
手はいつしか生徒の頸椎をなぞる
知っているはずの骨の数を指で数えながら
なにごともまずは観察する事が大切なのです
と目を細める
生徒は標本の硝子に手を伸ばし
取り憑かれた様に猫の心臓の輪郭をなぞる
日がだいぶ傾き
教室は墨を流したように薄暗くなっている
そのまま
二人とも
白い鳩の絵と共に
この墨に溶けてしまうのかもしれないと
互いに感じる程の闇が
おとずれている
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