列車の音/山部 佳
「ととん、ととん」
曇った夜空から
列車の走る音が聞こえる
大気の具合でこんな日がある
目の前に来た列車に
いい加減に乗り
いい加減に乗り継いで
私の旅は現在にある
飛び乗った列車が特急で
別料金を取られたこともある
たまたま魚の行商列車で
干物をもらったこともある
都会の近郊では
それなりに身を飾り
田園風景の中では
ほっと、ため息をついた
私の体からは
右手の小指1本と
左の肺が半分、失われた
心は、収縮した
「そろそろ帰って来い」
とうに消えてしまった
懐かしい故郷から
懐かしい人々が呼ぶ
「ととん、ととん…」
遠くを走る列車の音は
「縮んだ心を、少し膨らませて
あとちょっと走れ」
と、私に言う
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