レブンアツモリソウ/イナエ
 

この島に花を踏みつぶす獣は居ない 
人間が人間を信用出来ない哀しい風景

頑丈な木柵に阻まれ 
有刺鉄線につり下がる人間の業
心惹かれるものを手元に置きたい人間の欲望
愛しいものを我が手で育てたい人間の性
これら純な心につけ込む独占欲
盗掘を試み 移植を試み…

だが アツモリソウはかたくな 
育った土を愛し 
共に暮らした微生物を愛し
異土の暮らしを拒絶して息絶えるという

人の情を知る童らは木道を作り
多くの人に鑑賞させる
短い北の春に 
白い顔を見せる花
その宿命と清楚な姿は 
夭折した敦盛と重なって
壇ノ浦に沈んだ平家のようで
北端の離島に咲く姿は 
山間に静かに暮らす落人のようで

*「平家物語」から 

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