小さな春のタチェット/りゅうのあくび
気まぐれな嵐は
ときおり吹き荒れて
数え切れないほど
散り始める
桜の花びらが
舞い落ちては
ゆったりと流れる
どこかの運河の水面を
どこまでも薄紅色に
染めるように
この春は過ぎ去ろう
としていて
ちょうど晴れわたった
青空ひとつ
いつかの住み慣れた部屋には
褐色の厚紙でできた
搭がそびえたつ
引越しのダンボールの
荷造りは少しずつだけれど
たくさんの楽譜や
手作りのピエロの人形や
使い古されたフライパンやらも
少し残された
春の匂いにくるまれて
箱詰めにされている
ペールグリーンの
色彩の扉の向こうへと
多くの荷物が
いつのまにか
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