境界線まで/游月 昭
 
  公園の桜は葉がそろった
  イモ虫は蛹を破り
  羽根をのばして
  眩しい空の光をめざす


 遠いうしろで電車ごっこの子供たち
 運転手は僕だ!と叫ぶ子に
 皆は、ずるい、ずるいと囃し立て
 運転手は僕だ!
 運転手は僕だ!
 と
 子供たちは一斉に駆け出した


 私は歩道から荒れ地越しに
 西の空が赤く染まっていくのを見ている


 子供達の遊びは
 鬼ごっこに変わったようだ


入社した年の夏の日、
会社に初めてクーラー付営業車が届いた。
社長は定年間近の課長に乗るよう勧めたが、
課長は、腹をこわすからと辞退し、新人の
私に譲ってくれた。
数年で全車がクーラー付になったのだが、
今ではクーラー付が当たり前になった。


  林を揺らしていた蝉の叫び声は
  秋の虫に喰われ
  抜け殻の背中から
  木枯らしが吹き始めている


 誰かが私の肩を叩いた
 振り向くと男達が一列に並んでいる
 先頭の男が涙を浮かべて
 しかし、微笑みながらささやいた


 捕まえた




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