新聞配達 (夢喰植物)/乾 加津也
あかつきに浮かび上がる
公務員宿舎と電電公舎
ひとり走って戸に挟む朝刊
サン、サン、イチ、ヨン、ニ、イチ、ニ
口をつく勢い
少年だけの暗号
また足音のように、それはやって来た
すべての配達先が思い出せない
どこにもない、手元のリスト
吐いた唾(たいえき)からも、きみは逃れられない
人なし人の、入り口がめくられ
カラーボックスに漫画
犯されたリカちゃん人形
ベビーカー、赤ちゃんが寝ています、宗教お断り
焦る肩、立ちすくみ、考え続けるひたすら
ニ、イチ、ヨン、イチ、
いまにも広がる暗号のつづき
灼熱の底から、きみの首裏を舐めて
過ぎた舌先に
πの乱立
、
気がついたかい
空は紺青のフエキ糊
顔なし人はあちらこちらで
とりかえしのつかないきみと交差する
きみが出会いたい個人
(その名残りがギムとセキニン)
あの場所は
とわのπではなかった
老いらくよ、最期まで
(ひらくままに熱もこぼして)
もう、赦してあげて
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