薔薇の女/游月 昭
 

薔薇にとまった蜻蛉の複眼が
通りすぎる女を見る

巨大な硝子張りのビルディング
窓一枚一枚に映し出される
其れ其れの場面の
姿を、姿に、姿へ、姿が
パイプオルガンのパイプを通り
頭蓋内に建てられた城へ

無数のセル画に起こされ
全てを重ね合わせた
紛れもない女の姿が
城いっぱいに立ち上がる

黒く輝く背景を前に
薔薇の唇はしずかに開き
芳しい息吹を放つ

薔薇の女は作り上げられた
元の女は偽物にすぎない

蜻蛉の足は力なく離れ
そよ風にさえ吹き飛ばされて
やっと思い出した飛び方は
花びらのように
ひらひら
ひらひら



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