夜の蜘蛛/イナエ
走る車の音は途絶え
人の生命が休息する静寂に
尖ったかぎ爪に吊された昨日の夢が
今日にしたたり
沸き上がる霧が
不確かな明日を幻想する
鉢底からはみ出した根は宙を這い
広がった枝が隣の鉢を押し倒
枝先の子房から拡散するアレルゲン
むせ返りせき込む蜘蛛の
シャベルのような顎に
砕かれた夢のさざ波は
干渉と増幅を繰り返して
鼻腔を通過する
蜘蛛の臀部から
吐き出された糸に
絡み着かれた皮膚は
神経を弾かれ痙攣する
不規則に収縮する心臓が
送り出す液体に血管は硬化し
水流は肺に滞る
窮乏する酸素に大脳が震え
幻想が沸騰して
明日の夜空へ
声帯を震わせ
ベッドを呼び寄せる
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