血人(ちびと)/ホロウ・シカエルボク
 
ために


出し惜しみするなよ、どうせすべてなど夢のまた夢だ
いま語れることはすべてさらしておかなけりゃ
明日にはきっとどこか信用の置けない代物になっちまう
おれやあなたにどんな確信があろうとなかろうと
それだけが語るわけではないのだから
血の海を泳ぎながら
もう少し先へ、もう少し先へ
おれやあなたのままでありながら
いま話せることのすべてを言葉にしておくのだ
一秒一秒に遺言を残すのだ
一秒と同じように、背に、そこに、未来に存在する遺言を
少なくともそのことだけは、おれは信じ続けていくだろう
たとえばそれが嘘だろうと本当だろうと
そのことだけは信じ続けていくだろう


血の海に浮かびながらときどきは夢を見る
たとえばそれは結論でありながら進行し続けているおれであったりする
それはたぶんおれが望んでいるもののかたちのひとつなのだろう
泳ぎながら望んでいるものの、かたちのひとつなのだろう
生温かさは確かな厳しさだ
最後まで生体である為のパスポートだ
血の温度と匂いの中で成就するもの
おれそのものであることを忘れてはならない



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