純粋性理性批判/kei99
 
親愛なる友人に捧げる。

彼はミュージシャンだった。

バンドマンだった。

人生の中で一度だけ、スポットライトに照らされた。

だけど、彼の生涯は孤独と絶望と罰に塗れていた。

彼は生きることは、誰かの犠牲の上で成り立っていると考えてた。

その犠牲による生を原罪と呼んだ。

彼は罪の意識に苛まれていた。

原罪を如何に捉えて生きていくか。

それだけが彼の日課だった。

彼はある時、失恋を味わった。

失恋は痛かったが、傷つけられた自己愛に比べれば大したことはなかった。

彼は詩を書いた。

夢中で書いた。

彼の詩は風に吹かれて消えていった。

彼の死をまだ捉えられないでいる。

それが僕の原罪となった。
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